七、八人の出羽守の一行

 北伝八郎がおめいて、すらり長刀を引きぬきざま、主計と大次郎のあいだへ割り込んで来た。「小僧っ! 来るかっ!」 両手の指を失った川島与七郎は、一人が扶《たす》けて、七、八人の出羽守の一行である。 出羽は、すこし離れたところに立って、相変らず白の弥四郎頭巾の中から、おそらくは面白そうに、伴大次郎を凝視《みつ》めている。その背後に、ふたりの武士に左右を押さえられて、千浪が、狂気のようにおろおろと立ちすくんでいるのだ。 猿の湯をすこし相模のほうへ下りた途中の、山と山の間の広野である。こんなところで、何人の丹精《たんせい》で、こんな花園があるかと思われるくらい、地べた一めんに高山植物が花をつけて、ひろい野原に、赤、黄、むらさきと、一望に咲き揃っている眼も綾《あや》な自然の友禅模様《ゆうぜんもよう》――高い山にはよくあるお花ばたけなのである。 三国ヶ嶽から藤屋へ駈け下りた大次郎は、法外先生が階下の白覆面のために、肩に重傷を負わされたのみか、その一行は、騒ぎに紛れて千浪をひっ攫《さら》い、急遽《きゅうきょ》袂《たもと》をつらねて下山の途についたと知るや否、腰間《こし》に躍る女髪兼安を抑えてただちにあとを踏み、今やっとこの中腹のお花畑へ、千浪をかこんで麓へいそぐ一同に追いついたところだ。 江上佐助の文珠屋佐吉は、途中も気を配って捜して来たがどこにも見えない。 そして、これが、眼ざす祖父江出羽守とは、大次郎知る術《すべ》もないが、養父同然の恩師法外先生のかたきではあり、いま目前に、千浪様を掴まえて伴れて去ろうとしている相手だから――大次、しずかに女髪兼安の鞘を払って、とうとう抜いた。 出羽は、猿の湯の猿を殺して山に渦紋を招き、伴大次郎は禁制の女髪剣に陽の目を見せて、いよいよこの紛乱にいっそうの血しぶきをくれようとしている。 きのうの宵、三国ヶ嶽の月が笠をかぶったのは、ただ、昨夜のお山荒れをだけ予言したのではなかった。この、人界の血の暴風雨と、それから捲き起る万丈の波瀾を警告したのではなかったろうか。 そして、このすべては、善も悪も「煩悩」の二字が操るように人を動かして。「まいるぞ。」

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