山越えのやくざ者

 言いながら大次郎は、きっと、眼のまえの葛籠笠を覗き見て――山越えのやくざ者らしいがなぜ口をきかぬ?「下らぬ真似を致すな。見逃してつかわす。果報に思え。」 言い捨てて、千浪を劬《いたわ》って立ち去ろうとすると、その大次郎の面前へ、文珠屋佐吉、すうっと脇差しを抜いて突き出した。「おのれっ! やる...

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秋深く

     秋深く

 陽は、高い。暑いのだ。文珠屋は、その陽のほうへ背を向けて、自分の顔を影にすることを忘れなかった。 が、そんな気づかいをしなくても、彼はつづら笠をかぶっている。また、その編目は粗《あら》く、なかの顔は透いて見えるけれど、大次郎は生死の血戦を経たあとで、蹣跚《よろめ》きそうに弱っ...

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おそろしい使い手になった

 大次、いつの間にか腕を磨いて、おそろしい使い手になったものだ――と、われを忘れて見惚《みと》れていた文珠屋は、そのとき、わっと人声に気がつくと! 逃げ出したのだ、千浪が。 どういう隙があったのか、警戒の侍を振りほどいて、千浪が一散に駈け出している。 血なまぐさい光景に失神しそうなのだろう。無...

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